山の妖怪の中で、知名度も存在感も抜きん出ているのが天狗です。
山伏(修験者)の格好をして、赤い顔で鼻が高く、団扇などを持っている姿がよく描かれています。
天狗の語源は古代中国の彗星の異名から来ています。
日本書紀に書かれた彗星の記述では『東から西へ流れた』という一文があります。
当時の文献はとくに悪い出来事をありのままの言葉で記すことを避けている特徴があり、邪推すると東に住んでいる民が、小規模で西に攻め入ってきたことを示しているのかもしれません。
東に住んでいる鼻の高い民といえば、古墳の作られた時代からある程度交流があったアイヌを連想します。
アイヌの民は分類上、一般的な日本人と違ってロシア系の白人で、鼻が高く日焼けもしやすく、当時の日本の首都だった関西ではあまり見ることのない服装をしています。
修験者のメッカといえば、東北の出羽三山です。
東北や北関東は古くからアイヌの流入・交流が深く、一部地名にアイヌ語が残っている場所もあります。
山形県の正善院というお寺には、大きな鼻と耳まで裂けた口を持つ、羽黒修験道の開祖能除(蜂子皇子)の坐像が祭られています。
これも俗に広く伝えられている天狗のイメージの元になっていると思われます。
天狗の仕業とされるものに神隠し(天狗隠し)や、落石の音だけが聞こえる天狗つぶて、空から低い太鼓のような音がする天狗太鼓などがあります。
神隠しは行方不明者の安否が絶望的な時に、ちょっと思考を逸らすための装置として機能します。
落石の音だけ聞こえるのは音の反響の加減だったり、天狗太鼓は山の向こうの雷がやまびこで響いて聞こえるなど、科学的な説明は不可能ではありません。
天狗は日本神話の神・サルタヒコや、仏教と共に伝来したヴェーダ(インドの古代聖典)に登場するカルラにもルーツが求められ、調べれば調べるほど興味深い妖怪のひとつです。
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